ごぼり、と地表面を溶かし落としながら、ガインが姿を現す。
「久方振りの地上は、やはり眩しいものですね」
「そういうものか」
「それにしても、随分 様変わりしていますね。私が落着した時点では、大気は存在していませんでした」
(この星で造られたものではない、か……。どこまでが真実なんだ)
「先程は ああ言ったが、仲間と合流するまで使わせて貰っても構わないか?」
「ええ、どうぞ。私としましても、自力では動けませんし、お役に立てるので あれば」
「済まないな」
それほど離れていない筈だと考えたロックは、先刻の交戦ポイントまで戻り、まずは仲間達の機体を探した。
既に双子の悪魔の姿は無く、ぶすぶすと
どの機体も、恐ろしいまでに正確に、コクピットを狙われていた。
シールドを除けば、四肢に殆ど傷は無く、徹頭徹尾の一撃必殺のようだった。
脱出した形跡は……見られなかった。
「…………」
「これは?」
「俺の部下――仲間の、機体……だった」
敢えて過去形で表したロックに、ガインは何も答えない。
(また、失ってしまった)
弔いを済ませ、立ち上がるロック。
次の行動としては、他の小隊との合流を目指すのが本来なのだろう。
だが、この星に双子の悪魔が居るのであれば、残る五つの小隊も無事とは限らない。
それどころか、母艦である揚陸艦も含めて、全滅している可能性すらあった。
果たして、アマリアの索敵網を掻い潜り、邂逅ポイントへ辿り着いたロックの見たものは、自分達をアルカディアWへ送り届けた揚陸艦群の残骸、だけだった。
(生き残ったのは……俺だけ、か)
完膚なきまでに破壊された その様からは、捜索するまでもなく、生存者は居ないだろうと思われた。
新たな機体を得たとはいえ、たった一機で敵の拠点を どうにか出来る訳がない。
ロック達が、アルカディア恒星系まで乗って来た三隻の中型航宙艦は、アルカディアWとXの中間に漂うアステロイド・ベルトに留まっている筈だった。
しかし、民間船を改装したものの為、戦闘能力は無い。
戻れるなら本営に、いや せめて、アマリアの領域を出なければならない。
「ガイン、先刻言っていたな。この機体は、単機で大気圏を離脱出来るのか?」
「はい。造作も ありません」
「ならば、少し長くなるが、付き合って貰おう」
「その前に、質問させて頂いても宜しいでしょうか?」
「む? 何だ?」
ガインは、ロックの任務について興味を持ったようだった。
作戦行動に ついて言及する事は、本来 機密漏洩なのだろうが、ガインは人工知能だ。
そして この状況を鑑みるに、もはや作戦遂行は不可能と言って良かった。
かいつまんで説明するロック。
「では、補給基地を使用出来ないようにすれば良いのですね?」
「それは、そうだが。この状態では不可能だろう」
「可能です。人命を尊重する、と約束して頂けるのであれば、ですが」
それは、驚くべき提案だった。
「何を――言っている?」
話を整理した所によると、こうなる。
ロックが仲間を弔っている間、ガインが情報収集した限りでは、現有兵器で この機体が損傷を負う可能性はゼロである事。
基地施設の破壊のみを目的とするならば、人死にを出さずに遂行する事は可能である事。
そして――
「何故、そこまで俺に?」
「先程も申しましたが、私は自力では動けません。動機は、と問われれば、貴方のお役に立ちたい、としか。理由は、お答え出来兼ねます。私自身にも不明ですので」
本当に人工知能なのか、とロックの中に疑念が生まれる。
これでは まるで、感情を持った、人間ではないか。
「本当に……可能、なのか?」
「はい。蛇足ながら申し上げますと、この機体が最大戦闘力を行使した場合、“恒星一つを”消滅させる事が可能です」
「な――」
問いを重ねたロックだったが、この時点では既に、心を決めていた。
ガインと同じく、何故かは判らなかった。
判らなかったが、間違った事は言っていないと、もっと言えば、信じられる、と、そう思えたのだ。
結果として、その言葉には一片の嘘偽りも無かった。
敵HM、基地の対空兵装、歩兵の携行火器に至るまで、
既に この星を離れていたのか、双子の悪魔の姿は無かった。
重要拠点だけあり、HMも少なくない数が駐留していたが、双子の悪魔の様な、限界まで強化された兵や機体なら いざ知らず、一般機の機動性など たかが知れている。
文字通り、赤子の手を
そんな理由も重なり、ガインの側からは一切の武装を使わぬまま、基地を壊滅させてしまった。
それも、死者を一人も出す事なく。
改めて その惨状を見遣り、自分の仕事でありながら、呆気に取られるしかないロック。
合流ポイントから補給中継基地まで到達する間に、自分達以外の小隊が全滅している事を確認していたロックは、その足で大気圏を離脱、アステロイド・ベルトで待つ航宙艦へ、合流を果たすのだった。
敵の目を掻い潜り、何とかアマリアの領空を抜けた三隻の航宙艦は、ロックの所属する、銀河北辺方面軍、第13群 本隊と合流する。
ガインという新たな機体を得たとはいえ、自身の機体すら失い、ただ一人、それも身一つで帰還したロック。
母艦の
航宙艦の中では、敵襲に備え、機体から降りなかったからだ。
そそり立つ鉄巨人は、全高こそGHM-78を頭一つ越す程度だったが、その外観のボリュームは倍に見える程だった。
一見して判る武装の類といえば、
背部には、リニア カノンか、バズーカに見えなくもない、砲身状の構造物が一対存在したが、それが武装なのか、或いは推進システムの一部なのか、ロックには判断が付かなかった。
しかし、と思い返す。
少なくとも、この機体の防御能力が、桁違いな物だという事は、この目で見た事実だ。
(この機体が あれば――)
心に浮かぶ
(違う! そんな事をしても、失ったものは戻らない。いつだって……)
気付くと、ガインの周囲に人だかりが出来ていた。
「拒否します」
汎銀河連盟の領域に入った時点で、報告書は転送してあった。
そのせいだろう、機体の調査をすべく、上官が整備班を引き連れて来たが、ガインは
「こ、こいつ、たかが人工知能の癖に、人間に逆らうというのか!」
「お言葉ですが、私は造られてから1300年を数えます。貴方よりも年上と言えます」
「な……!? 馬鹿な! 人工知能技術が確立してから、たかだか200年だぞ! そんな古代に人工知能が存在した筈が あるか!」
「何と言われようと、事実です」
この不毛な やり取りは、一体
疲労感に
*
*